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​汀は遠く・天使は歌う鋏に合わせて

​阿部橘

汀は遠く

 

 

照明が遠のきぬるま湯の底で発泡してゆく肌を見ていた

 

拭われた背中に残る透明の鱗は海で産まれた名残

 

シーツ擦る足の裏から潮騒が生まれてくる朝汀は遠く

 

青空に白く抜けてる鳥影を摘まんだ影が焼けつく砂浜

 

波音があなたの声をさらうから焼けつく砂の熱が愛しい

 

きょうだいが陸に追われた日を思い枯れ枝砂に滑らせてゆく

水かきを愛でるあなたに囁くのわたし前世は人魚だったと

天使は歌う鋏に合わせて

 

MISSINGはにかむ祖母が張り紙の中で流した涙は乾いて

 

直線の日差しが割った道の向こう影がゆらいだ何かを叫んで

 

ハラの実を繋ぎ捧げる聖書台ただ一人立つ斜陽のチャペル

 

山ほどのプルメリアから鼻を出し溺れていたのは祖母だったもの

 

丁寧に透明フィルムを掛けられた喉仏に貼る祖母の写真を

 

鉢植えに骨を沈めた夜に咲くアンスリウムの顔した天使

 

アーモンドみたいな月を背負い刈る天使は歌う鋏に合わせて

 

明け方にアンスリウムが羽ばたいて燃え尽きるとき懐かしい匂い

2015年に誕生した

文芸同人「黄桃缶詰」のホームページです。

 

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